技術は、必要としている人に届いて初めて意味を持つ」メキシコで義手の研究・製作に挑むJICA海外協力隊員に聞く

メキシコのInstituto Politecnico Nacional(IPN)で、現地の学生たちとともに電動義手の研究・製作に取り組むJICA海外協力隊員がいます。
今回MEXITOWNでは、メキシコの大学間連携プロジェクトの一環として活動する厚木さんと中村さんにインタビュー。お二人が海外協力隊を目指したきっかけから、現在の活動、現地で感じる難しさ、帰国後も研究を継続できる環境づくり、そしてメキシコで挑戦したいことまで、幅広くお話を伺いました。
<目次>
技術を、必要としている人に届けたい
――まず、お二人が海外協力隊を目指したきっかけを教えてください。
厚木さん:今回のプロジェクトは、現地の学生と共同で、メキシコの実情に合った電動義手を作り、さらにその研究を継続していくというものです。私はもともと義手の研究をしていたわけではなく、大学では金属加工について研究していました。研究室の先生の影響もあり、「技術というのは、何らかの形で必要としている人に届いて初めて意味を持つものだ」と考えるようになりました。自分が持っている技術を、人の役に立つ形で届けられるようなプロジェクトに参加したい。そして将来も、人の役に立つモノづくりができる環境で働きたいと考えていました。
義手は人体に装着するものなので、軽量でありながら強靭である必要があります。また、日本でもメキシコでも、普通の人が購入できるような価格であることも重要です。そう考えると、設計だけではなく、「どんな材料を使うのか」「どう加工するのか」「どうやって製作するのか」といった視点が欠かせません。そこで、自分の専門性を電動義手のプロジェクトでも活かせるのではないかと思い、参加を志望しました。
もう一つ大きかったのが、友人の存在です。協力隊ではないのですが、地元の友人がアフリカの新興国で長期インターンに参加していて、それがかなり刺激になりました。まさか自分の身近な友人から、そういうことをする人が出てくるとは思っていなかったんです。それをきっかけに、欧米などの先進国ではなく、第三国や新興国で長期間働いたり、活動したりしてみたいと思うようになりました。そんな時に、大学で「こういう協力隊のプロジェクトがあります」と紹介されているのを偶然見つけて、「やってみよう」と思ったのがきっかけです。
左:現地の学生に自己紹介をする厚木さん 右:普段の仕事場所である研究室
3年間の義手研究を「メキシコで活かしたい」
中村さん:私は、学部から修士課程までの3年間、研究室で義手について研究していました。そこで学んだことを、どこかで実際に活かしたいと思っていたところ、今回のプロジェクトに参加する機会をいただきました。今回の活動は、一般的な海外協力隊の活動とは少し異なり、大学間連携プロジェクトをもとに始まっています。私が所属している電気通信大学と、活動先であるIPNとの間にはもともと交流があり、そうした一環として「メキシコで義手を作る」という企画が立ち上がりました。
義手の研究を3年間続けてきてずっと感じていたのが、市販されている電動義手の価格の高さです。日本で購入しても数百万円するような製品もあります。もちろん非常に高度な技術が使われている製品ですが、一つ一つの技術を分解して考えてみると、「実は、そこまで難しいことではないのではないか」と思う部分もありました。
そうした研究活動を振り返りながら,「どうすれば、メキシコという地で義手を作ることができるのか」を考え,実行してみること自体が、私にとってのこのプロジェクトの大きな意味の一つだと思っています。
左:現地で作成した義手用回路で大人用のロボットハンドを動かして紹介する様子 右:現地の学生に活動目的を共有する中村さん
メキシコの学生と「ゼロから」製作環境を作る
――現在の活動内容についてご説明ください。
厚木さん:中村さんが主に義手の設計を担当し、私は部品の加工や製造を担当しています。具体的には、金属板金加工やCNC加工などです。活動先の大学では、義手用ロボットハンドを作ること自体が初めての試みです。そのため、私たちが帰国した後も、現地の学生たちが自分たちで作り続け、研究を続けられるような仕組みを築くことを目標にしています。
また,一過性のプロジェクトでは意味がないと思っています。なので,現地の学生や先生方と協力しながら、板金加工やCNC加工を行い、加工方法を検討したり、製作に必要なジグを設計したりなど、生産の仕組みそのものをゼロから考えています。私たちが帰国した後にも、ここで研究が続いていくための「土台」を残したいと考えています。
「軽くて、丈夫で、使いやすい」義手を目指して
――義手を作る上で、特に重要になるポイントはどんなところでしょうか?
中村さん:義手は人体に装着するものなので、まず軽くなければなりません。その一方で、物を掴んだり離したりする際の力に耐えられる強度も必要です。何かにぶつかってしまった時に壊れないことも重要です。そのため、義手に求められるのは,まず「軽くて丈夫で、しかも使いやすい」ことだと思っています。
最近話題の3Dプリンターで作れるものはプラスチックのものが中心になりますが、プラスチックだけではぶつけた時に壊れてしまったり、熱によって変形したりする可能性もあります。そこで、この活動では,車の外装などにも使われるような金属板加工を用いて、軽くて丈夫なロボットハンドを作れるようにすることを目指しています。
また、義手用のロボットハンドには通常のロボットハンドとは大きく異なる難しさがあります。義手を必要とする方には、手の一部が残っている方もいれば、全体が失われている方もおり,その状態には非常に大きな個人差があります。そのため,残っている身体の部分と義手が干渉してしまえば、装着すること自体が難しくなります。だからこそ、義手はコンパクトで,使用する人の邪魔をしてはいけません。
一つ一つは当たり前なようなことに思えても、実際はいろいろなところに、作ってみないとわからない「義手だからこそ必要な工夫」があることに気づきます。そうした知識やノウハウを一つ一つ整理して、資料として残していくことも、今回の活動では非常に重要だと考えています。
左:日本で製作した義手用の部品(下)とそん色ない物(上2つ)がメキシコで作れてきている
中央:義手としての運用を目的とした大人用のロボットハンドの機構部分とその回路
右:現地で作成した義手用回路で子供用のロボットハンドを動かして紹介する様子。軽さと力強さを両立させることが非常に重要
言葉の壁、そして「現地だからこそできること」
――現地での活動で、難しいと感じることはありますか?
厚木さん:やはり、言語の壁は強く感じます。日本語なら簡単に伝えられることでも、英語やスペイン語になると、細かいニュアンスまで伝えるのが難しいことがあります。現地の学生さんたちは英語が堪能な方も多いので、英語とスペイン語を使ってコミュニケーションしていますが、それでも技術的な細かい部分を伝える時には難しさを感じます。
また、CNCの金属加工機を動かすためのプログラミング言語(Gコード)も、日本で使っていたものと大枠は似ているようで少し違う部分があります。「なぜ機械がうまく動かないんだろう」と悩むこともあります。ただ、しんどいというよりは、やりがいを感じていますし、楽しみながら取り組んでいるという感じです。
中村さん:「困難だ」と思うことは、実際にははあまり多くありません。むしろ「この環境で何ができるのか」を自分で考え行動することこそが、私たち協力隊の本来の仕事だと思っています。
ただ,IPNの学生さんたちは、本当にメキシコの中でもトップレベルの学生たちです。私たちがこういうことをやりたいと伝えると、まずこちらの話をしっかり聞いた上で、自分たちの意見を出してくれます。それが本当に素敵だと思います。こちらの想いを理解した上で動いてくれることに、日々感謝しながら活動しています。
上:活動で使用している大学の工房
中央:日本大使館にお2人の活動を紹介する様子
下:既に多くの学生たちに活動紹介を行ってきている
帰国後も続く研究へ――「義手とは何か」から残していく
――お二人が帰国した後も、現地の学生が研究を続けられる環境を作るために、どのようなものを残していきたいですか?
中村さん:まず、「義手とは何なのか」という基本的なところから資料として残していく必要があると思っています。私たちが使おうとしている技術は、ロボットハンドの「掴む」という機能を義手に応用するものです。しかし、義手用のロボットハンドは、通常のロボットハンドとは設計そのものが異なります。義手を必要としている方の身体の状態には個人差があり、残っている身体の部分との干渉を避けながら、小型で軽量なものを作らなければなりません。なので,実際に取り組んでみないと気づかないようなことがたくさんあります。だからこそ、そうした小さな気づきやノウハウを一つ一つまとめ、後に残していきたいと思っています。私たちの活動が終了した後も、現地の学生たちが残した資料を見ながら,彼らの研究活動を進められるようにすることが重要だと思っています。
「メキシコでやっておきたいこと」は?
――任期中に「これだけはメキシコでやっておきたい」ということはありますか?
厚木さん:2つあります。
一つは、私はダイビングのライセンスを持っているので、ぜひメキシコ湾やカリブ海など、メキシコの自然を堪能して帰りたいです。
もう一つは、メキシコのスペイン語をある程度話せるようになって帰ることです。若者言葉や慣用句、スラングなども含めて、現地のスペイン語を学びたいと思っています。現在は大学院を休学して来ていて、就職活動中でもあるので、もし今後のキャリアに活かせるのであれば活かしたいと思っています。そして、メキシコの同じ世代の友達を多く作って帰国したいです。
中村さん:私は、「ものを作ること」が好きです。
もちろん料理をするのも物を作ることなので好きなのですが,メキシコ料理は世界的に見ても非常に面白く、ユニークな食文化だと思います。そのため,活動期間中に、自分の得意料理の中にメキシコ料理を一つ加えたいと思っています。
――例えばどんなメキシコ料理に挑戦してみたいですか?
中村さん:やっぱりタコスですね。現地での学生さんたちに振舞っていただいたように,日本の友人たちにも振る舞えるようになりたいです。今は日本でもタコスブームなので、「これが本場のタコスだよ」と広めることができればと思います。
「自分の必要性に疑問を持つ瞬間もある」――これから協力隊を目指す人へ
――これから海外協力隊を目指している方にメッセージをお願いします。
厚木さん:私自身、メキシコに来てまだ3カ月ほどなので、まだまだ活動の途中ですが,任国で活動していると、少なからず「自分はここに必要なのだろうか」と疑問に思う瞬間があると思います。私も少なからずそう思った一人でした。
そして同期の隊員たちと話をする中で、かなり多くの人が「自分って本当にここにいる必要があるのかな」と悩んでいるように感じます。でも、そこでずっと悩んでいても時間は過ぎてしまいます。
自分の能力を見くびる必要はありません。でも、決して過大評価もしない。その上で、「自分にできること」を少しずつでもいいので見つけて、任地に貢献できることを一歩一歩着実に進めていくことが大切だと思います。
決して立ち止まらないこと。
そして、しんどくなったら誰かに相談すること。
こうした壁にぶつかった経験は、きっと帰国した後にも生きてくると思います。海外協力隊を目指している方には、ぜひ任地に向かって、一歩一歩進んでいってほしいです。
現在の協力隊の広告を見ると、「人生なんてきっかけ一つ」というキャッチフレーズを目にすることがあります。本当にその通りだと思います。私にも「きっかけ」があり、「自分も第三国や新興国、途上国に行って、何らかの活動をしてみたい」と思うようになりました。
だから、協力隊でなくてもいいと思います。
海外に行ってみる。
海外で生活してみる。
海外にいる人の話を聞いてみる。
何か一つのきっかけがあれば、それが人生を変えることもあると思います。
中村さん:私も基本的には同じ考えです。最近、日本の若者の中には、海外にあまり行きたがらない人が増えていると聞きます。しかし、海外で生活する経験を、若いうちに一度でも作っておくと、それが人生のターニングポイントになることもあるのではないかと思います。
海外で生活してみると、日本にいる時とは比べものにならないくらい、言語、生活、仕事など、ありとあらゆることが難しく感じ,様々なところで困ることがあります。
そうした環境では、自分自身の限界に直面する機会がものすごく多いと思います。普通に生活していたら、ここまで自分の能力不足を痛感するような経験は、なかなかないと思います。しかし、そういう経験は一つの「試練」であり、自分自身の成長につながる非常に有益な機会でもあると思っています。
「今、自分には何ができるんだろう」と悩んでいる方はきっと少なくないと思います.そのような人こそ、このような活動を通じて、自分自身の内面を見つめ直す機会にしてほしいと思います。自分の存在について自問自答するような経験も、きっと大きな成長につながります。ぜひ頑張って、海外協力隊を目指してみてください。
ーーありがとうございました!

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JICAメキシコ事務所
ボランティア事業担当 野尻
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