今回はグアナファト州・シラオにあるプエルト・インテリオール(Guanajuato Puerto Interior)のマネージングディレクター、エクトル・ロペス・サンティジャーナ氏(Héctor López Santillana)のインタビュー記事です。
プエルト・インテリオールにある企業の45%が日系企業であり、企業の工場やオフィスがあるだけではなく、敷地内にはレストランや病院などもあり、敷地内ですべて完結できるような場所です。そんなプエルと・インテリオールの魅力や将来、またSantillana氏が日系企業に抱く印象などをお聞きしました。
※El articulo en español
<目次>
日系企業が全体の45%を占めるプエルト・インテリオール
ープエルト・インテリオールには多くの日系企業が進出しています。
Santillana氏:トヨタ、ホンダ、マツダ、日野などの日系自動車メーカーの参入で自動車産業がグアナファト州に集中しています。そうした企業のサプライヤーなどが、プエルト・インテリオールで、工場やオフィスを構えました。多くの日系企業が長距離移動することなく、便利に仕事を進めることができます。
現在、プエルト・インテリオール内にある 123 社の企業のうち、45% が日系企業です。現状、すべては自動車および自動車部品業界に関連しているわけではありませんが、自動車部品の製造用のツールを提供する会社やマーケティング会社、部品作りのための原材料の鋼鉄を輸入する会社もあります。自動車部品の製造や、輸出入業務を促進する物流サービス会社、メキシコまたはアメリカにいる日系の組立企業に配達する物流サービス会社もあります。
また、日系企業だけではなく、メキシコにいる他の業者へのビジネスチャンスにも期待が高まっています。
日系企業の印象は非常に良い
ープエルト・インテリオールは日系企業の進出をどのように見ていますか?
Santillana氏:プエルト・インテリオールだけでなく、グアナフアト州での日系企業の印象はとても良いです。特に次の3つの点においてです。
(1) 1つ目は、日系企業がすべて約束通りに仕事を行うことです。さらに、契約ベースではなく、合意や握手するだけでの合意でもしっかりしていただけることはとても安心できています。
(2) 2つ目は、相手に敬意を払う日本文化です。日系企業がメキシコ人に嫌がらせをしたという苦情は一度もありません。20年以上ここにいますが、環境への配慮のなさや苦情は一度も聞いたことがありません。
(3) 3つ目は、日系企業の基礎的な製造プロセスが確立されていることです。なぜなら、メキシコ人は日本の品質、時間、コスト、生産力などをすぐに知ることが出来ます。また、自動車産業とのいい経験を活かし、日本とグアナフアト州の間で築いたポジティブな関係を、食品やエネルギーなど、メキシコの他の持続可能性があるビジネスにもつなげていきたいと考えています。
日系企業との付き合いは、10~11年しかないですが、日系企業に大きなポテンシャルを持ってることを感じました。
日本では大きな政策があり、廃棄物処理に対して非常に厳しい、廃棄物処理のための非常に効率的な技術を持ってます。これは私たちがコラボレーションして、さらに高いレベルに引き上げることに繋がるチャンスと、私はそう感じました。日本の文化とメキシコの文化は大きく異なりますが、お互いに勉強になります。
再生可能エネルギーのテーマにより取り組んでいく
ープエルト・インテリオールはこの 10 年間で、周りの環境はどう変化しましたか?
Santillana氏:いうまでもなく良い方向に変化しました。メキシコ、グアナフアト、プエルト・インテリオールで抱えている課題を、これから着実に解決していく必要があると考えています。私が日本から学んだ3つの点をお話しします。
(1) 私たちが日系企業や日本文化から学んだ最初の大きなことは、計画を立てることでした。メキシコ人は通常、詳細に計画をたてることはありません。日系企業は、詳細に計画をたてています。私たちは日本の文化から、インフラの開発などにおいてもこうした計画性が実践に活かせることを学びました。日本に、とても感謝しています。日本は私たちを支援し、どのように準備し、どのように教育し、どのように社員を教育するかを教えてくれました。まだ先は長いですが、計画性の重要さを学びました。
(2) 2つ目は、企業が社内で使用している品質原則・5Sは、プエルト・インテリオール内でも適用されていることです。私はプエルト・インテリオール内の清潔さと秩序が保たれているレベルの高さに感心しています。
(3) 3 つ目は既に述べましたが、教育とビジネスの関係です。日本では非常に当たり前なことでも、メキシコ人の私達にとっては新鮮でした。プエルト・インテリオール、産業と教育のつながりを強化する国立工科大学(IPN) (Unidad Profesional Interdisciplinaria de Ingeniería Campus Guanajuato IPN)のキャンパスがあります。ここには、トレーニングエリアがあります。プエルト・インテリオール内で、そしてグアナファト州全体で、産業と教育とトレーニングの関係を発展させることができました。
そして私たちは未来に向けた課題を抱えています。現在、日本とヨーロッパの企業は、持続可能な開発への取り組みと再生可能エネルギーの問題、廃棄物処理の問題、持続可能なエネルギーを課題として挙げております。そうした課題はプエルト・インテリオールも取り組んでいかなければなりません。
日本から沢山のことを学んだ教育システム
ーSantillana氏は日系企業や日本人には、どのような印象をお持ちですか?
Santillana氏:日系企業や日本人に対する印象は大きく分けて2つあります。
(1) 私は、日本とメキシコの似ている点と違う点について話すことが好きです。メキシコと日本が似ている点、それはどちらの国も農耕文化がルーツにあることです。どちらの国も、土地に対する愛着心を大切にする文化が生まれました。土地を用意し、種をまき、育てることが何であるかを知っています。良い製品を手に入れるまで、土地を豊かにしていくことの意味を知っています。
(2) 2つ目は私が非常に重要だと思っていることです。世界ではインダストリー4.0 が語られていますが、日本ではすでにソサエティ5.0 が語られています。日本は、社会の発展のためのツールとして技術力に焦点を当てています。そしてそれは私たちがメキシコでも望んでいることです。ここメキシコでは、何かに親しむという概念が非常に強いです。それは日本とメキシコの共通点であり、日系企業や日本人が計画を立てて物事を進めることから、この点を学んだのではないかと思います。
日本での経験は私にとって非常に深いものであり、私たちの教育システムが日本のシステムからもっと学ばなければならないと感じました。少しずつそれは達成されつつありますが、私たちはより管理することに注視し続けなければなりません。
日本とメキシコの間で直面する大きな課題の1つに時間管理があげられます。 メキシコ人が好きな言葉は「アオリータ(今)」ですが、この「アオリータ」は、日本人とメキシコ人では意味が大きく異なります。日本人とメキシコ人の間で私が見た最も大きなミスコミュニケーションは、「アオリータ」という言葉のせいです。この問題が解決され、メキシコ企業と日系企業の間で「ジャスト・イン・タイム」などのコンセプトが開発された良い成功例もあります。
プエルト・インテリオール、これから
ープエルト・インテリオールの未来はどうなると思いますか?
Santillana 氏:プエルト・インテリオールにいる企業は、まだ成長できる可能性があると考えています。
私たちが目にするのは、まず今日ここにいる企業が自社の施設内で事業を拡大したり、すでに所有している土地で施設を拡大したりしていることです。したがって、プエルト・インテリオールは敷地の面積は変わっていないものの、ビジネスのボリュームは成長しています。
例えばデンソーのような企業が 1,000 万ドルの投資を行って自社の事業を拡大しています。他の多くの日系企業も後に続き、拡大をしています。
次に、日系企業が更に進化しているということです。日系企業は、より多くのテクノロジーと付加価値を備えた、より洗練されたプロセスに変化しています。
また、世界で行われているリローカリゼーション(地域回帰)に対応する形で、プエルト・インテリオールは企業の事業拡大のためにサポートしていることです。各企業が事業を成長し続けることができ、プエルト・インテリオールがグアナフアトまたは地域の他の工業地帯や他の企業との交流の場になれることを伝えたいです。
プエルト・インテリオールは、企業が集まり、情報を共有し、より地域に根差したビジョンを持つ多くの企業と出会う場所になります。プエルト・インテリオールの将来を決めるのは、共通の問題を共同でいかに解決できるように協力する力です。それがプエルト・インテリオールの未来です。
プエルト・インテリオール周辺の人口は270万人
ーありがとうございます。プエルト・インテリオールは、グアナファト国際空港が隣りにあり、グアナファト市とレオン市からもすぐ近くに位置しているため、グアナフアトで最も規模の大きい工業地帯ですね。
Santillana氏:はい、プエルト・インテリオールがここにある理由は、まさに空港に隣接しているからです。そして鉄道、高速道路もあるからです。 4 つの都市 (レオン市、イラプアト市、グアナフアト市、シラオ市) からアクセスしやすい場所にあります。レオンとイラプアトの間の人口は 270 万人、レオンが 約180万人、イラプアトが 約50 万人、グアナファト市が約20万人、シラオが約20万人。あわせて約270万人にもなります。中には、ロミータやサンフランシスコ・デル・リンコン、サラマンカからも通勤している人がいます。そう思うと日本にあるような新幹線が必要かもしれませんね。
ーグアナフアトに新幹線ですか!?
Santillana氏:はい、日本人もビジネスで頻繁に移動していますが、日本のインフラと公共交通機関は素晴らしく、特に公共交通機関は時間通りに動いています。メキシコでもこうした仕組みを取り入れる必要があります。
日本ではインフラ、モビリティ、教育への投資を網羅して計画を立てていますが、メキシコでは、それぞれ別々に計画することはできても、総合的に計画することが苦手です。もう 1 つは、私たちメキシコ人は計画を立てる時、統計結果を頼りにしています。それが悪いというわけではありませんが、もっとビジョンを明確にして、すべてを連携させる必要があります。
ちょっとここで、プエルト・インテリオールの全体図をご紹介しますね。
ー是非お願いします!
一つの複合施設のような工業団地
Santillana氏:私たちはただの工業団地ではなく、物流、産業、ビジネスが集結した複合工業団地です。
レオンが西にあり、プエルト・インテリオールの東にはシラオとイラプアトがあります。グアナファト州で最初にできた税関があり、かつメキシコで最大規模の税関です。
ここには国立工科大学があります。この大学の存在こそが、プエルト・インテリオールがただの工業団地ではないといえる理由です。現在、この研究所だけで約 4000人の学生が在籍しており、5 つの学習プログラムと 5 つのエンジニアリングのプログラムが行われています。ここにいる企業 (主に日系企業)は、エンジニアリングのトレーニングを受けた人材が必要なためです。
水処理施設、消防署、託児所、診療所があり、新しく開業したAranda de la Parra 病院もあります。日系企業がグアナファト州に進出し始めたときに最も心配していたのは医療へのアクセスです。こちらの病院には日本語を話せる医師が1人いますので、心強い存在だと思います。
更に、日本人からの緊急電話に対応した「ジャパンデスク」も5年目になります。困ったことがあったら、是非ジャパンデスクを利用してください。
日本とのつながりでもう一つお伝えしたいことは、広島県とグアナファト州との友好提携も私にとってはとても喜ばしい絆です。
このようにプエルト・インテリオールはビジネスの分野だけにとどまらず、グルメや文化を通じてお互いをよりよく知ることができる場所ともいえるでしょう。
グアナフアト州は皆様のことお待ちしております!
グアナファト州は、他の地域から来た人々に対して非常にオープンな州です。私はグアナフアト州ではなく、ヌエボ・レオン州・モンテレイで生まれました。私は幼い頃にグアナファトに来て、ここに住み、育ち、レオンで市長を二期務めたので、外部の人間にとてもオープンな州です。そして私たちは、日本との関係がオープンであると認識しています。日本の音楽、文化、食べ物、飲み物、カラオケが大好きです。そして、日系企業がグアナファト州に進出し、今日まで発展してきました。寿司や天ぷらなど、数年前にはなかったものを今では好んで食べている人を見かけるようになりました。それだけでも、グアナファト州が日本人に対してオープンで、日本と良好な関係だと思える場面の一部ですね!
ーSantillanaさん、本日はありがとうございました!
編集後記
元レオン市長ということで、SNSなどのメディアで何度も拝見したことのある、レオン在住の日本人の方にとっては馴染みのある存在のSantillana氏。メディアで見るお姿は物腰が柔らかく、優しそうな方という印象ですが、その印象を全く裏切らない方でした。執務室には日本の国旗もあり、撮影用に日本とメキシコの国旗を飾っていただくという素敵な計らいまで!インタビューの最後にはプエルト・インテリオール全体の地図を指しながら丁寧にご説明までいただくという対応に、当方含め取材班全員、すっかりSantillana氏の対応に感動してしまいました。
日本、日系企業、日本人が大好きなSantillana氏がプエルト・インテリオールの成長を見守ることで、日本人である私達が心地よい環境で仕事が出来、かつ工業団地内で様々なアクティビティが行えるのだと実感しました。来月レオン市のForum Cultural Guanajuato で行われる Mas Japon en GTOの開催も心待ちにしている様子でした。
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