メキシコで大切なことは「I」より「We」—テクノアソシエ藤田社長が語る現地マネジメント術
- MEXITOWN
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1999年のメキシコ進出から四半世紀。テクノアソシエ・メキシコ(Techno Associe de Mexico, S.A. de C.V.、以下本文中ではテクノアソシエ・メキシコ)が築き上げてきたのは、単なる「商社」にとどまらない、ものづくりの知恵と信頼を重ねた存在感です。
今回は、テクノアソシエ・メキシコの藤田社長に、メキシコ拠点の特徴や人材育成、ご自身のマネジメント哲学や今後メキシコ進出を考えている方へのアドバイスなどのお話を伺いました。
<目次>
メキシコ進出後25年、市場も変わりました

— まずは、テクノアソシエ・メキシコの事業内容と強みについて教えてください。
藤田社長:テクノアソシエは、1804年に日本で創業し、現在では世界10か国に21拠点(うち製造5拠点)を展開しています。メキシコ法人はその一翼を担っており、1999年にバハ・カリフォルニア州・ティファナで事業をスタートしました。
現在のメキシコ国内拠点は、ティファナ本社、グアナファト州・シラオの工場・営業拠点、そしてヌエボ・レオン州・モンテレイの営業所の3拠点です。2018年にシラオ工場で稼働を開始して以降、メキシコは当社グループ唯一の「商社機能+製造機能」を併せ持つ拠点です。現在、従業員は3拠点併せて116名、うち駐在員が5名です。5名の駐在員は全員シラオにおり、ティファナはメキシコ人の従業員で運営しております。
ーメキシコに進出して25年が経ちましたが、この25年間でメキシコはどう変わりましたか。
藤田社長:25年前はメキシコ・ティファナではTVや太陽光パネル、家電などといった産業が活発でしたが、その後中国や韓国の安い家電に日本の製品が淘汰され、日系企業の撤退も相次ぎました。
2000年代初頭から、自動車業界(輸出)が活発になりました。ただ最近では空調関連メーカーなども進出してきているので、家電関連が今後どれくらい伸びていくのかにも注目しています。今年に入りアメリカのトランプ大統領の政策に、各社大変苦労していると思います。最悪の場合、撤退や事業縮小する企業も出てくる可能性もゼロではないので私たちも日々気を抜けませんが、私たちはアメリカにも拠点があるのでアメリカからサポートは可能です。グローバルにお客様に対応していくことができるのは弊社の強みだと思います。
「提案型ものづくり」でお客様をフルサポート

— それでは、ティファナとシラオ、2拠点の持つ役割の違いについて教えてください。
藤田社長:ティファナはメキシコ法人の本社機能を担っており、アメリカに隣接した地の利を活かして、マキラドーラ対応を行っています。もともと設立当時にメキシコで製造が活発だったTVや太陽光パネルなどの業界向けに事業を展開していましたが、現在では自動車産業が主軸となっています。
物流拠点としても重要な役割を果たしており、港湾アクセスの面では、エンセナダ港、そしてアメリカ西海岸のロングビーチ港などを活用しています。近年、マンサニージョ港は非常に混雑しており、通関や搬送に時間がかかることから、リードタイムやコストの面でマンサニージョ港のみの活用では不利になることがあります。
そのため、ティファナからは比較的スムーズな通関が可能なエンセナダ港やロングビーチ港を活用し、納期とコストの最適化を図るようにしています。お客様のニーズや状況に応じて最適な物流戦略を組めるのも、当社の強みの一つです。

シラオ工場では、トルクコンバーター部品やブレーキ部品といった重要保安部品の精密加工を行い、高度な加工技術と品質管理で評価を得ています。検査設備には3次元測定機や画像測定機、真円度測定機などを備え、QCDS(品質(Quality)・コスト(Cost)・納期(Delivery)・サービス(Service))のすべてでお客様に満足していただくことを目指しています。
ー御社が心掛けている「提案型ものづくり」とは。
藤田社長:私たちはただ製品を流通させるだけではありません。お客様が設計段階からどのように加工すれば生産しやすいか、品質が安定するかを共に考え、図面に落とし込んでいく「提案型のものづくり」を行っています。
また、仕入れ先の選定も営業や品質保証のメンバーが現場で直接確認し、協業できる相手とだけ取引するという姿勢を大事にしています。問題が起きた場合も、私たちが主導的に原因を分析し、改善に向けて協働する体制をとっています。
「I(私)ではなくWe(私たち)」を意識する

— メキシコでのマネジメントにおいて、意識されている点はありますか?
藤田社長:私がメキシコでマネジメントを行う上で最も大切にしているのは、「I(私)」ではなく「We(私たち)」の意識です。メキシコの方々は仲間意識がとても強く、何事も「私たちはこうしたい」といった集団的な考え方で動く傾向があります。だからこそ、私も英語やスペイン語で話す際には意識的に「We」や「Nosotros」という表現を使うようにしています。
一方で、マネジメントの観点から見ると、メキシコの方々にはいくつかの傾向があります。たとえば、先を見越した行動(先手管理)が苦手な方が多く、数字の感覚にもやや弱い傾向があります。例えば、製造の現場で「1日2,000個作るには1時間あたり何個必要か」といった計算がすぐに出てこなかったり、時間の逆算がうまくできなかったり・・・。また、経理面でも毎回数字が違ってしまうといったことが起こることもあります。
問題が起きたときに自ら進んで解決に動ける人は少なく、「やって終わり」で、その後の確認や見直しが弱い。自分のミスを素直に認めることが難しい傾向もあります。そういった背景を理解した上で、どうやって彼らと一緒に目標に向かって進めるか、そこを常に考えながらマネジメントをしています。
だからこそ、目標を伝える際には「これをやろう」と投げかけるだけでなく、「達成したらどうなるか」「なぜそれが必要か」といった背景まで具体的にかみ砕いて伝えるようにしています。相手の心に響く言葉で、対話を通して伝えていくことが大切だと思っています。
私自身がシラオやティファナの現場に行く際は、必ず全社員に挨拶し、できる限り名前を覚えるようにしています。「Feliz Cumpleaños!(お誕生日おめでとう)」と声をかけることも日常の一部です。まずは「Kazuo Fujita」という人間がどんな人なのかを知ってもらう。それが、信頼関係を築く第一歩だと考えています。
顔を見せ、声をかける。その積み重ねによって、ようやく本当の意味でのマネジメントが成り立つのだと思っています。たとえば、「あなたはどう思う?」と問いかけながら一緒に問題を考え、次のステップとして「資料を作ったら必ず見直そう」といった再確認・改善意識を何度も何度も繰り返し伝えています。絵を描いて説明したり、とにかく伝わるまであきらめません。
また、信頼できるNo.2、No.3のローカル幹部にも常に話をしています。「私は今こういうことを考えている」「経営としてこういうことを大切にしている」と、上層部だけでなく組織全体に浸透させるために、情報の共有は欠かせません。最終的には、メキシコ人スタッフが自ら考え、動けるようにならなければ、強い会社にはなれません。
会社は「I」ではなく「We」。人と人とのつながりをベースに、上下関係なく、全員が同じ方向を向いて進むことができる組織づくりを目指しています。
教育についても、法律で決まっていることは当然守りつつ、それ以上のところで「人として」どうあるかを大切にしています。たとえば、名前で呼ばれるだけで誰でも嬉しいものですし、「この日本人、なんか言ってるけどちょっと聞いてみようかな」と思ってもらえるような姿勢で接しています。
何度も何度も言い方を変えてでも、伝わるまで伝えることが必要です。離職してしまう人もいますが、それもまた割り切りとして受け入れながら、次にどう活かすかを考えています。
— 現地の人材採用や育成についてはいかがですか?
藤田社長:履歴書の内容だけではなく、目を見て「この人と一緒に働けるか」を第一に確認します。部署ごとの専門メンバーにも面接に入ってもらい、スキルや理解力も確認します。また、メキシコでは転職が多い傾向があるため、その背景や前職の在職期間もしっかりチェックしています。採用後も、3か月の試用期間中に仕事を通じて見極めるようにしています。技術よりもまずは“共に働こうとする姿勢”を重視しています。
日々の生活でもコミュニケーションを意識

— ご自身の生活面でのルーティーンや意識していることはありますか?
藤田社長:まず、週末のゴルフは欠かせません(笑)。治安の関係もあり、夕刻以降の外出は控えるなど安全には気を配っています。長い人生の中で、今は会社に海外で生活させてもらっているという貴重な経験を無駄にしないよう、メキシコの良いところを見つけるように意識しています。また、日本駐在員だけとのコミュニケーションだけでは生活はできませんので、メキシコ幹部社員とも業務だけでなくプライベートの話をするよう心掛けています。そうすると次第に「このお店はおいしいよ」「新しいアイスクリームやさんできたよ」「あそこで事故があったよ」というった情報も自然と入ってくるようになります。人とのコミュニケーションは日々の生活でも心掛けてます。
最近は料理にも挑戦中で、日本に帰国した際には「男の料理」本を買って勉強しています。私はアメリカと中国に駐在経験がありますが、その頃から欠かさず英語も週1回は勉強していますし、日々の積み重ねを大事にしています。
メキシコでビジネスを考える皆さまへ

— 最後に、これからメキシコに進出を検討している日系企業や、現在メキシコに駐在する方々へアドバイスをお願いします。
藤田社長:まず、メキシコ進出を検討する企業の方へ。メキシコでビジネスを始めるにあたり、まず重要なのは、メキシコの国民性や文化、労働制度を正しく理解することです。前述にもあるようにメキシコの方々には「「先手を打つ管理が難しい」、「自分のミスをなかなか認めにくい」、「数字が苦手」といった傾向が見られます。
一方で、彼らは非常に話好きでフレンドリー、そして豊富な情報を持っているという強みもあります。そうした強みと弱みの両方を把握した上で、効率的なマネジメントが可能かをよくシミュレーションし、ビジネスを開始することが不可欠です。
また、製造業においてはメキシコの労働者が法律によって強く保護されているという点も理解しておくべきポイントです。たとえば、最低賃金は毎年想像以上に上昇しており、PTU(利益配分金)や有給休暇への25%の手当などが義務付けられています。これらの制度を正確に理解し、人件費(製造原価)を正しく計算した上で、原価と利益のバランスが取れるのかを冷静に見極める必要があります。
加えて、福利厚生の設計にも注意が必要です。一度設定した制度は、労働組合との合意がなければ原則として変更できません。たとえば、アメリカの風習を参考にして「クリスマス休暇を12月20日から」と設定した企業もありますが、こうした制度が後になって重い経費負担になることもあります。PTUやアギナルド(年末手当)、夏のボーナスなど、支給時期や内容をあらかじめ精査し、現地の法制度と労働文化を理解した上で制度を構築することが、持続可能な経営の鍵になります。
「日本や中国なら一人で完結できる仕事でも、メキシコでは複数人のチームが必要になる」——そんな違いを事前に理解し、事業として成り立つかを多角的に検討することが求められます。
次に、メキシコに駐在する方へ。メキシコに駐在するにあたり、大前提として意識してほしいのは、「駐在員だけでは生活も仕事も成り立たない」という現実です。
たとえば、大企業であれば社内に情報に精通した日本人(駐在員)がいるかもしれませんが、ほとんどのケースでは現地のメキシコ人スタッフと協力し合い、信頼を築いていくことが必要不可欠です。そのためにも、まずは彼らの国民性や働き方、文化をよく理解し、「歩み寄る姿勢」を持つことが大切です。
上から目線で指示を出し続けるような態度では、メキシコの方々は「何あいつ」と距離を置いてしまいます。「分からないからもういいや」と思われてしまったら、駐在員としての仕事も次第に孤立し、結果的に憂鬱な毎日になってしまうかもしれません。
会社の未来を託されて赴任しているという自覚を持ち、「いかに自分の想いを伝え、周囲を巻き込んで動いてもらうか」を常に考えながら、日々の業務に取り組むことが求められます。
ー分かりやすいアドバイスをいただきまして、ありがとうございました!

経歴
1973年大阪府豊中市で生まれる。1996年3月に関西学院大学商学部卒業後、同年4月テクノアソシエ(旧社名 東洋物産)入社。2004年には同社上海拠点経由、米国サンディエゴ拠点勤務。2013年から日本本社で約5年勤務後、2018年から米国テネシー拠点勤務を経て、2021年より現在のメキシコ拠点にて勤務。趣味はゴルフと時代劇鑑賞。
TECHNO ASSOCIE DE MEXICO, S.A. DE C.V.
ティファナ本社
BLVD. HECTOR TERAN TERAN #20120 EDIFICIO 9-A, CIUDAD INDUSTRIAL, MESA DE OTAY TIJUANA, BAJA CALIFORNIA, MEXICO 22444
シラオ工場・営業オフィス
AV. ALAMO #108 PARQUE INDUSTRIAL LAS COLINAS, SILAO, GUANAJUATO, MEXICO 36113
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