この会社に関わるすべての人を幸せに: マツダデメヒコビークルオペレーション社長兼CEO・石橋剛氏インタビュー
- Shoko Wen
- 8月11日
- 読了時間: 5分

2025年4月、マツダデメヒコビークルオペレーション(Mazda de México Vehicle Operation、以下MMVO)の新社長兼CEOに就任した石橋剛氏。アメリカ、中国に次ぐ3度目の海外赴任となるメキシコで、どのようなビジョンを描いているのか。これまでのキャリアやメキシコ赴任の印象、今後の抱負についてうかがいました。
<目次>
福岡・北九州からマツダへ、品質一筋のキャリア

私は福岡県北九州市の出身で、大学まで地元で過ごしました。1992年にマツダに入社して以来、主に品質管理の分野でキャリアを積んできました。
これまでに2度の海外駐在経験があります。最初は1995年から1999年にかけて、アメリカ・ミシガン州デトロイトに出向しました。当時、マツダはフォード傘下でした。為替レートも今では想像できない、円高の1ドル80円台で、貴重な経験をさせていただきました。
2度目は2011年から2015年、中国・南京での駐在でした。南京は日本人にとっては複雑なイメージを持たれる都市ですが、実際に住んでみると中国の方々は非常に友好的で、中国の歴史と近年のスピード感ある発達をこの目で見させていただきました。
日本に戻ってからは、「CX-30」の開発責任者を務め、その後、2023年に品質本部長に就任。そして2025年4月よりメキシコの生産拠点を任されることとなりました。
サラマンカ工場の変化に驚き
メキシコ赴任の打診を受けたときは、ある程度自分の中では想定していました。これまでのキャリアの流れから、3度目の海外赴任があるのではと思っていたからです。いくつか候補地を考えていた中で、メキシコはその一つでした。
実際に赴任してサラマンカ工場に足を踏み入れたときの印象は、「想像以上にしっかりしている」というものでした。2017年や2018年に出張で訪れた際は、日本人がメキシコ人スタッフに教える姿が多く、自律にはまだ時間がかかる印象がありました。しかし、現在は現地スタッフの自律が進み、チームとして成熟していると感じています。
メキシコ人の真面目さに感銘
メキシコという国には「陽気で明るい人が多い」というイメージを持っていましたが、実際に接してみると、それに加えて非常に真面目な方が多いと感じました。欧米や中国のように自己主張が強いタイプとは異なり、控えめながらも芯の強さを持った人が多いという印象です。こうした文化や国民性を理解しながら、共に良い会社をつくっていきたいと考えています。
この会社に関わるすべての人を幸せに

厳しいビジネス環境の中でメキシコに赴任してきましたが、私は一貫して「この会社に関わるすべての人を幸せにしたい」という思いを持っています。従業員はもちろん、お客様、地域社会も含め、すべての関係者を幸せにすることが自分の使命だと考えています。
これは、1989年に発売しましたロードスターの精神にも通じます。発売当時、日本では珍しかったオープンカーですが、実際に乗ると非常に楽しく、「チャレンジする勇気さえあれば幸せになれる」という価値観を象徴しています。この精神を、私は今の工場運営にも反映させたいと思っています。
グアナファトから逃げない――地域と共に歩むマツダへ
今後の抱負としては、具体的な目標以上に、メキシコ・グアナファトにしっかりと根を張り、生産・雇用の安定を守りながら、地域社会にも貢献していきたいと考えています。マツダブランドの認知度と好感度をさらに高めるためにも、地に足のついた活動を続けていきます。
実際、マツダの販売台数は世界でアメリカ、日本に次いでメキシコが第3位を占めています。日本・広島市内よりも、メキシコシティの方がマツダ車を多く見かけるほどです。ソウルレッドのマツダ車が街を彩る光景を見るたびに、現地のお客様に大切にされていると感じます。
日本とメキシコの懸け橋として──地域交流の現場で感じたこと
今年5月には、グアナファト州のリビア・ガルシア知事が日本を訪問されました。私もその訪問に同行させていただいたのですが、知事ご自身が非常に真摯な姿勢で事前の打ち合わせに臨まれていて、その真面目さと熱意がとても印象に残っています。
特に感動的だったのは、知事がマリアッチの楽団を日本に連れてこられたことです。広島では、マツダスタジアムでマリアッチが演奏を披露しました。広島県知事もお越しになっていたその場で、マリアッチがなんと広島カープの応援歌を日本語で歌いました。1番から4番まで、完璧に覚えて演奏し、2番あたりで球場がざわつき始め、最後には大歓声に包まれました。あの光景は、今でも強く心に残っています。
ただのパフォーマンスではなく、日本の文化や地域をリスペクトし、全力で準備してくださったその姿勢に、多くの方が心を打たれていたと思います。街中でもマリアッチが演奏してくれて、広島の方々を笑顔にしてくれました。あの訪問以降、広島を訪れたメキシコの関係者からは「広島は本当に素晴らしかった」というポジティブな声しか聞きません。
ちなみに、昨年は広島県の湯﨑知事もグアナファト州を訪問されています。こうした地域間の交流が継続的に、しかも自然な形で行われているのは、本当に喜ばしいことです。私たちマツダとしても、その橋渡しの一助となれているのであれば、これほど嬉しいことはありません。

石橋社長の言葉からは、異文化への深い理解と敬意、そして「人」を中心に据えた経営哲学がにじみ出ていました。マツダがメキシコ・グアナファト州・サラマンカの地でさらに愛され、信頼される企業として成長していく未来が、いま確かに動き出しています。
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