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(後編)滝本 昇氏「日系企業はメキシコの商習慣や法律を勉強し、トップダウンの指導力を持つこと」

メキシコで頑張る方にインタビュー。第36回目で2022年最初のインタビューを飾っていただくのは、JIGYOU SUPPORT STRATEGYの滝本昇氏(後編)です。

 

<目次>

 

戦後の貧しさに比べたら、COVID19も乗り越えていける

MT:前編では、滝本さんがスペイン語を勉強し、メキシコに移住したきっかけから、これまでメキシコで経験してきたことについてお話しいただきました。後編では、昨年のお話や日系企業がメキシコに進出するメリット、今年の抱負などをお話しいただきます。昨年はCOVID19の感染状況が2020年から続いていましたが、滝本さんにとってどのような1年でしたか


滝本氏:2021年1月26日に80歳になりましたが、3月にCOVID19に感染しました。感染症対策には気を付けていましたが、油断をしていたのかもしれません。ある日なんとなく喉が痛いと感じ、PCR検査を受けたところ陽性反応が出て、検査から4日後、メキシコシティのHospital Español のCOVID専門病床に入院しました。酸素マスクを付け、面会謝絶・外部からの持ち込み禁止で大変苦しかったですが、


「戦後の貧しい時を耐えたんだ、それに比べたらこれくらい乗り越えていける」


という想いを持ち続けていました。入院して2~3週間目にやっと2日連続で陰性になり一般病床に移動しました。一般病床に1週間入院後退院しましたが、退院後に熱っぽさを感じ、再入院。PCR検査では陰性でしたが、院内感染で急性肺炎になりました。3週間ほど入院しましたので、COVID19に感染して入院した時期を合わせると、6~7週間の入院生活でした。


MT:そうだったんですね。現在は回復されて安心しました。その後後遺症などはございましたか。


滝本氏:後遺症はありました。今はもうないですが、回復直後は足首がうまく動かない・味覚障害がありました。退院後セミナー講師もしましたが、セミナー終了後に息苦しさを感じたりしました。9月に長男のいるヒューストンに行きワクチン接種をした後あたりから急激に元気になりました。それでも現在は体力的にフルタイムで働けないので、殆ど自宅勤務です。

 

アメリカの真似をしすぎたメキシコ


JIGYOU SUPPORT STRATEGYのスタッフの皆さんと


MT:2015年にTCF法律事務所を退職し、2016年に人事・労務・組合関連の案件を主に取り扱うJIGYOU SUPPORT STRATEGYを設立されました。長年に渡るコンサルタント業務で、日系企業がメキシコに進出するメリット・デメリットについて、滝本様のご見解をお願いします。


滝本氏:メリットはメキシコは様々な国と貿易協定を結んでいる点です。米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)があり、なんといってもアメリカに近いという地理的条件も大きなメリットといえます。メキシコへの外国投資も、観光客もアメリカが大きな割合を占めています。 


反対にデメリットとして挙げられるのは社会問題ではないでしょうか。メキシコで生活していて疑問に思ったことが、「何でメキシコには電車が地下鉄がもっとあってもいいのにないのだろう」という点です。公共交通はバスがメインですが、時間通りに来なかったりするので不便ですよね。電車があったら随分助かるのにと思います。


その一方で道路網は充実していることから、アメリカの真似をし、同じようにメキシコも後を追っています。アメリカの文明・文化を引き継いでしまい貧富の格差を埋められない。メキシコはもっと世界に目を向け、中国や日本、ヨーロッパなどのメリットを導入すべきだったのではないかと考えています。アメリカに依存してしまったことは、今の政権でも同じことがいえます。


また、モノを製造する文化が伸びていないこともあげられます。ブラジルはEmbraerというブラジル製の航空機が世界に知られていますが、メキシコというと何が思い浮かびますか?


MT:確かに、Made In Mexicoはパッと考えても思い浮かばないですね。


滝本氏:そうですよね、全て国外のブランドを消費しています。これは、アメリカが近いことによって、比較的簡単に完成品が手に入ってしまうのが理由として挙げられます。モノを輸入して、販売するというビジネスモデルで簡単に利益を上げられるという産業構造を覚えてしまったため、「モノづくり」の文化がありません。モノづくりを工夫することを忘れてしまった社会は伸びません。安易に収入を稼ごうとするやり方が当たり前になっているが故に、腐敗が多いのです。 


日系企業で働く方へ 4つのアドバイス


MT:そうしたメキシコでもやはりアメリカに近いというメリットが魅力で、進出する日系企業。進出後、おそらく読者の皆様も頭を抱えるメキシコ人従業員との接し方について、滝本さんは多方面でアドバイスをされていますが、日系企業で働く日本人の方にアドバイスをお願いします


滝本氏:大きく分けて、4つのアドバイスがあります。


1.終身雇用は存在しない


まず、日本の企業は「ある会社に入ったら一生そこの会社に勤める」いわゆる終身雇用の考えが当たり前になっていますが、メキシコでは終身雇用はまず存在しないことを理解していただきたいです。待遇のいい会社を求めて、職場を変えていくというところは、アメリカの真似をしていると思います。よくある話で、メキシコ人従業員を日本に研修に出し、メキシコに帰国してから同じ会社に1年以上在職し続ける方は全体の半分以下といわれています。数年間在職していたという方は皆無ではないでしょうか。日本いったことで箔がつくので、いいチャンスがあれば転職してしまいます。こうした行動を「恩義知らずだ」という方もいますが、少なくとも恩は感じているはずです。


2.トップダウンの経営を取り入れる


2つ目はトップダウンの経営を取り入れることです。メキシコは階級社会なので、所得の格差が激しいです。上下の賃金格差についていえば、ブラジルとメキシコがラテンアメリカで最も激しい国として挙げられます。最低賃金層で働く人々と会社の経営層や幹部の住む世界は180度違う世界で、下の層から見た上の層の人間はとてつもなく偉い立場になります。日本の企業のように、平社員から部課長まで一緒になって会議をしたり、相談し合うことがないです。そのため、トップダウンの経営が不可欠となってきます。 


3.人任せにせず、自らも勉強を


3つ目はメキシコ人の従業員に全て任せてしまうのは避け、幹部クラスの方は自分でしっかり勉強してほしいことです。よくあるケースが、日本からの出向者で「工場の業務はことわかるけれど、経理や総務が分からないので、メキシコ人に任せてしまおう」という方が見られます。頭の良い方はそれをうまく利用し、自分の好きな人を雇って自分勝手な運営をするケースもあります。中にはメキシコ人と一緒になってメキシコの労務・人事などに関する法律を勉強している会社社長の方もいらっしゃって、上手くいっている会社もあります。


4.従業員の階層ごとに、接し方を変える


4つ目は従業員の役職の上下差や各階層ごとに、使い方を考えなければいけないことです。

ある日系企業の支店長の方が、自分の運転手を誘ってごはんを食べることが常習化していました。すると運転手が偉くなったと思い込み、他の従業員に威張り始めたそうです。そこで、部課長の方が支店長の方に「一緒にお昼食べるのはやめてほしい、あなたと一緒に行動すると偉くなったと勘違いしてしまうから」とお願いしたという話を聞いたことがあります。


また別のケースでは、ワーカークラスの方から駐在員の方が結婚式に誘われ、出席したというケースがあります。実際に参加すると誰も話しかけてくれず、場違いな気分になったようです。1度出席したことにより、周りの他のワーカーの方も「私も結婚するんです」と話しかけてしまい、収集がつかなくなる場合があります。こうしたケースに対しては、「ありがとう。結婚式には行けないけれど、これどうぞ」の程度にしておき、贈り物ですませたほうがいいでしょう。


こうしたトラブルの回避のためにおススメしたいのは、規則をしっかりと定めておくことです。就業規則や稟議規定・行動規範などを定め、ルールに乗っ取った行動をしてもらうようにすることです。最近ではメキシコ人従業員がセクハラ・パワハラなどで訴えるケースもあり、即日本に帰国になるというケースも見られます。


ただし、従業員の使い方もケースバイケースで会社の雰囲気もあるので、そこにあったやり方を実践して頂ければと思います。


2022年は景気が回復基調になることを祈りたい


MT:2022年の抱負をお願いします


滝本氏:COVID19と半導体不足の影響でメキシコ国内の自動差産業が落ち込んでいます。日本からの投資も5~6年前まではアメリカなどに次いで3位だったのに対し、韓国・中国からの外国投資が増え、落ち込みました。2021年が景気の底だとしたら、今年から徐々に回復基調になり、弊社のサービスを利用するお客様も増えてほしいと望んでいます。


個人的なことでは、妻に8人、私に6人の合計14人の孫がいますが、これからどう成長していくのか日々の楽しみでもあります。


平成29年度「春の叙勲(旭日双光章)」授賞式の時の様子


安全対策には気を付けながら、観光資源が豊富なメキシコを楽しんでほしい


MT:最後に、現在メキシコで生活されている方へのメッセージをお願いします。


滝本氏:まずは安全対策に気を付けていただきたいです。メキシコは治安が日本に比べたら比較にならないほど悪いです。現地の方のいう危険な地域の情報などには充分耳を傾けてください。また、複数人で行動することを心がけてください。銀行口座の詐欺(行内犯罪)も頻発していますので、こまめに銀行口座の残高はチェックしておくこともお勧めします。 


日本にあまりないような腸チフス、肝炎などにも気を付けていただきたいです。各社主治医の方がいらっしゃると思いますので、少しでも体調に不安を感じたら相談し、健康管理には充分気を付けてください。 


こればかり話してしまうとメキシコはやはり怖い国というイメージが先行してしまいますが、いいこともあります。私からお勧めしたいのは、観光・料理・音楽・ゴルフです。


メキシコは観光資源が豊富な国です。各州にそれぞれの自然の美しさを見ることが出来ます。事情が許す限り、色々な場所を訪れるといいと思います。私のお気に入りの観光地はキンタナ・ロー州やユカタン州にある古代遺跡群や、チアパス州の国立公園です。チアパス州の国立公園では、吸い込まれるようなエメラルド・ブルーの色を下美しい滝を見ることが出来ます。 


メキシコ料理も滞在中に是非挑戦してください。メキシコ料理は2010年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。実は和食よりも先に登録されています(和食の登録は2013年)。辛いものが多いイメージが先行していますが、中には日本人の口に合うものがあります。その中でも私はポソレとモレが好きです。


ラテン音楽は非常にロマンチックでいい音楽が沢山あります。メキシコではちょっとした集まりに音楽は欠かせません。日本に比べ、日常において歌や音楽を聴かせる場が非常に多いです。音楽や歌が生活に溶け込んでいます。そうしたメキシコの良さも体験して頂きたいです。


また私はゴルフが好きで、よくゴルフに行きます。日本に比べたらずっと簡単に始めることが出来るので、ゴルフもお勧めですよ。メキシコは天気にも恵まれていて、カラっとした気候で快適にゴルフをすることができます。


MT:本日はありがとうございました。

 

経歴:

滝本 昇

Noboru Takimoto

上智大学外国語学部イスパニア語学科卒業後、メキシコに渡航。1968年メキシコ、イベロアメリカ大学労務管理学科卒業。1968~1973年メキシコ日産社長の秘書役兼文書秘書課長、1976年から2015年11月までの39年間、法律事務所(Takimoto, Cortina, Farell y Asociados, S.C.)の代表社員を務める。2016年2月にJIGYOU SUPPORT STRATEGY社を設立。日系企業の現地法人設立、人事・労務管理、職場環境整備など多岐に亘るサービスを提供する経営コンサルタントとして活動する傍ら、様々な企業や団体の役員・監査役も務める。

1993年、平成5年度「経済協力貢献者賞(通産大臣賞)」を受賞。2017年、平成29年度「春の叙勲(旭日双光章)」を受章。2020年7月29日、メキシコ全国工業会議所連合会(CONCAMIN)より対日本代表に任命される。


主な役職歴・日本メキシコ学院元理事長、メキシコ日本商工会議所元副会頭、メキシコ全国工業会議所連合会現雇用生産性向上副委員長、日墨協会現幹事。


経歴出所元URL:https://jigyou.info/?lang=ja

 

編集後記


MEXITOWN編集長の大学の大先輩にあたる滝本氏。冒頭では上智大学のある四谷キャンパスのお話などをして、インタビューはおよそ2時間近くにもなりました。ただ、お話をお聞きしていても飽きることがなく、もっと滝本氏のエピソードをお聞きしてみたいと思うような雰囲気に終始包まれました。


特にメキシコシティオリンピック、メキシコ大震災での出来事はニュースや文献などでは目にしたことがあっても、実際にその場で経験した方の話に耳を傾けることの必要さを実感しました。


そしてCOVID19に感染されても無事回復したのは、ご自身が戦後の貧しさに耐えてきたからこそ乗り越えていけるという心の底にある強い執念があったからかもしれません。


普段メキシコに住んでいると楽しい事ばかりではなく、想像もつかないような辛い事、悔しい事が沢山起こります。それでも、あの時の辛さを思えば乗り越えていくことが出来るという思いを持つことで、少しでも気持ちが楽になり、また次のステップに行くことができる—そんな海外で長く生活していくためのヒントを滝本氏から頂いたような気がします。

 

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電話:+52-55-6286-0084

Eメール:office@jigyou.info 営業時間:平日9時から18時 休日:土日祝祭日


 

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