メキシコのホテルにはスリッパがなかったり、あったとしても薄いスリッパしかなかったり。。。また日本人のご自宅では靴を脱ぐことが多く、その時靴下だけだと何となく寂しい。そうした声に応える形でウィチョール族の素敵なビーズとレオンの革市場でよく見かけるような革製の携帯スリッパを組み合わせた”ビーズスリッパ”が生まれました。
今回はそんなビーズスリッパを生み出したアグアスカリエンテスの舛岡由紀子さんにお話を伺いました。ご自身はメキシコの日系3世のご主人と国際結婚され、国際結婚の大変さや日系移民の義理のご両親とのお話しなどをお聞きしました。また、アグアスカリエンテスのおススメスポットもご紹介いただきました!
<目次>
キラリとセンスの光る”ビーズスリッパ”!携帯できる便利さが売り
ー舛岡さんが58商店を開いたきっかけを教えてください。
舛岡さん:私がアグアスカリエンテスに暮らし始めた当初はハカランダの会という帯同でいらしている日本人奥様方の婦人会がありました(生憎、2020年無期限活動休止)。
私は永住者という事もありハカランダの会には所属していなかったのですが、私はメキシコ民芸品や伝統工芸品が大好きで普段から身に着けて過ごしているという事もあり、当時のハカランダの会の役員さんからメキシコ民芸品をセレクトして販売して欲しい、という依頼を受け、ハカランダの会でセレクトした民芸品を2013年より販売する様になったのがきっかけです。
実際のスリッパのラインナップ
ーウィチョルのビーズがあしらわれたスリッパはなかなか見かけません。スリッパはよくありますが、何故ウィチョルとスリッパを組み合わせようとしたのか、教えてください。
舛岡さん:アグアスカリエンテスには日本人学校があり、多くの駐在員ご家族が住まれています。
数年前、日本人学校で現地の演者たちによる死者の日の余興のお手伝いをする機会がありました。体育館に集まった数人の父兄の方が履いていた日本のホテルによく常備されている”使い捨てスリッパ”を履かれているのを目にしました。私自身アグアスで暮らしていて日本人ご家庭へお呼ばれで訪問する機会がある時に携帯出来る”マイスリッパ”があるといいなぁ。と思っていた事もあり、考案したのがきっかけです。
そんな矢先、あるExpoで知り合ったアグアス在住のウィチョール族の方との出会いを通して、閃いたのが携帯出来る”ビーズスリッパ”です!!
メキシコは革製品に定評があるし、じっさい革製のスリッパが売られているのは見かけます。でも、ただの革のスリッパでは私の美的感覚が許さない!(笑) 室内履きといっても可愛いものを履いてトキメキたい!と考え、
スリッパにウィチョールアートのビーズをワンポイントに置く事でキラリとセンスの光るスリッパが出来るのではないか⁈
となり、スリッパ業者とウィチョール族との試行錯誤の末、完成したのが渾身の力作の”ビーズスリッパ”です。2017年頃から販売しています。
スリッパのビーズはウィチョール族の方が一つ一つ丁寧に作成
手前に写るアクセサリーも可愛いですね!
自分だけのスリッパをデザインできるのが楽しいという声も
ービーズスリッパを実際にご購入された方の反響はいかがでしたか。
舛岡さん:まずコロナ禍によって外履きと室内履きとを履き分けるという風潮がメキシコでも浸透しつつあり、昨今では少しづつではありますがメキシコ人の方にも需要が増えて来ています。日本人の方には、やはり軽くて持ち運びに便利なケース付きで携帯できるという利点が評価されています。
また全5色、22cm〜30cmというサイズ展開ということもあり子供から成人男性までのサイズを提供できるという点でも多くのリピート客がおります。
全て受注制作を取っているため、5色の中からお好きなスリッパの色とサンプルデザインの中からお好きなビーズのデザインの組み合わせでスリッパを制作するので、各お客様のオリジナル感が出て、スリッパ注文時の選ぶ段階からも楽しいと好評をいただいております。
ー今後、どのような商品のラインナップを考えていますか。
舛岡さん:実は、3年前からマヤ文明の頃から伝わるメキシコ産のCacaoの効能に惹かれ、生活に純カカオ(加工を除いた)を取り入れてます。もっと多くの方へメキシコのカカオの素晴らしさと歴史と共にメキシコ先住民族ウィチョールの文化もビーズスリッパの販売と並行して伝えて行きたいと考えています。
写真は、私が日常取り入れてるcacaoです。カカオバターとカカオ粉を使ってローチョコを作ったり、またカカオには保湿や抗酸化作用があるので、カカオバターを使ってハンドクリームやリップバームを作ったりもしてます。1番手前の丸い瓶はカカオニブと海塩を混ぜてサラダにふりかけたりして食してます。その上の中央の瓶はカカオの殻を炒ったカカオティーです。すごく良い香りがして幸せホルモンと呼ばれているセロトニンとエンドルフィンを増加させ、気分を改善しリラックス出来ます。私は1日30gのカカオを摂取してます。
結婚を機にメキシコ移住。カルチャーショックの連続と日系人の義理両親から学んだこと
ー国際結婚をされた舛岡さんですが、こんなカルチャーショックがあって驚いたこと、またそれをどう乗り越えたかをお話しください。
舛岡さん:夫が東京医科歯科大学院博士課程在学中に東京で知り合い結婚し、博士課程学位審査終了後に私は夫の母国のメキシコへ移住して来ました。
日本での入籍は、私の戸籍に夫が扶養家族として入るので事務的手続きはあっさりとしたもので非常に簡単なものでしたが、メキシコ側での婚姻届は書類関連がちょっと複雑でした。
メキシコで挙げた結婚式の際のミサでは、私がカトリック信仰者ではないこともありさらに複雑で、日本のイエズス会主任大司教様2名からの私達の婚姻を認める署名が必要とありました。渡墨前に日本で揃える書類集めに右往左往し、国際結婚でしかも異教徒間での婚姻がこんなにも複雑なものなのか!と新婚当時の私は国際結婚と宗教の壁に途方にくれそうになり、必ずしもミサを執り行う必要はあるのか?とカトリック教徒ではない私の中では葛藤もありました。
しかし、メキシコの家族と夫の情報収集力のおかげで書類上に不備はなく、晴れて私達の婚姻はミサでも認めてもらえ、ミサ終了後にメキシコの家族と日本の家族や日本からの参列者の間でのそれぞれの信仰観と価値観の異文化交流の一環となった気がして、少なくとも私と家族の中では大きな収穫となり、やっぱりとり行ってよかった。と心から思いました。
私が嫁いだ夫の実家はメキシコ日系人家庭という事もあり、義理家族達は戦前にメキシコへ渡って来た祖母達から伝授された日本の文化をとても大切にし誇りを持って暮らしています。日本からメキシコに来たばかりの頃の私には、大正時代辺りの概念や言動に時代錯誤的な感じをうけ、度々驚かされた事もありました。そして、少々日本という国や習慣などが美化されている様に感じる事も多々ありましたが、逆に義理両親からは古き良き日本の慣習や日本人としての誇りを学ぶ事も多く、学校では習わなかった日系移民の方達の苦労やメキシコに根づいた日系移民の歴史を学ばさせていただいています。
また日本語とスペイン語が入り交じった会話が飛び交います。お義父さんとお義理母さん達の育った時代は、現代の様にインターネットで日本の情報を瞬時に収集する事やテレビやラジオにおいても、日本の話題が上がる事もあまり無かったし日本の食材も入手困難な環境だったはずなので、現在よりもメキシコから見た日本というのは遥か遠い国だった事と思います。
メキシコに来た当初の私は、レストランへ行っても街中を歩いていてもメキシコの主食・とうもろこしの『maíz』の匂いが鼻につき、私は長い期間トルティージャの匂いが苦手となり食べる気にもなりませんでした。
そしてメキシコ料理のその殆どにトマトのサルサがつき、食材の持つ風味をかき消している様で大雑把なトマト味の食事しかないのか?と思っていたのですが、今では各家庭、作り手によってトマトサルサの味も異なり、サルサ一つをとっても奥が深いものなのだな。と感心しています。
逆にメキシコで育った夫から言わせると日本の料理のその殆どには醤油の味がすると言われました。しかし、日本料理の出汁の取り方や発酵食品を取り入れる食文化は興味深いと言っていて、日常的にお米を主食としての日本食の献立が並ぶ我が家の食卓に夫が文句を言ったことは一度もありません。我が家では食事にかける調味料にトマトvs醤油という風にトマトサルサと醤油が食卓に並ぶことが多いです。食文化においても、両国の良さを受け入れて我流の解釈で柔軟にミックスし我が家の食生活に取り入れています。
そんな風に慣れていったメキシコ生活。その後も宗教観の違いから様々な事柄が勃発しました。
全てにおいて自己管理、自分の考えをハッキリと主張すること
例えば息子が生まれた際に割礼をするのか?洗礼名をつけるのか?といったものです。
私の答えは『NO』でした。
しかし、夫からは「メキシコはカトリック教徒が多く、教育機関はカトリック系の学校が多い。この国の道徳観は全て聖書の教えから成り立っているのでやはりカトリック教徒であることが『無難』だ」。と言われたのです。私はその概念にとても違和感を感じ、まだ何も選択肢の権限もない息子へ親が決めていいことは名前だけな様な気がしました。そのため、宗教も国籍も問わない世界で共通した名前を息子へはつけました。聖書における道徳的な教えというものは息子が自由に様々な環境で自分で体得していって欲しいと願い息子は現地校に通わせています。
もう一つ大きなカルチャーショックといえば、やはり妊娠・出産時のことが大きかったです。
メキシコの産婦人科での検診時は医者から手厚くファローされたりアドバイスがあったりということはあまりなく、全てにおいて自己管理です。そのため、自分で調べたり気をつけたりしながら体調管理を行い産後もあまりアドバイスはなく、自然分娩を望んでいたにも関わらず急遽帝王切開になり、72時間以内には新生児を抱かされての退院でした。
日本の様に産褥期というものがメキシコにはなく、母乳の出が悪くても指導などはなく術後の傷が完治していないのに車に乗り帰宅。車での移動中ではtopeの衝撃が傷口に響きとても苦痛だったことを鮮明に覚えています。こういった状況下においても子沢山なメキシコのママたちは本当に逞しいものだと痛感しました。
長くメキシコに暮らしていて日々思うことは、病院へ行くことが気軽ではないということ。
よく日本で聞いていた様な「医者は神様」という考えはメキシコに住んでいるとその観念は異なるものなのだと痛感させられます。健康診断や人間ドックが自費ということもあり、何か体の不調のない限り病院へは行かないのでやはり健康管理も自己管理で行うのが必然。健康面に関することは徹底的に自分で調べ自分が納得した方法を取り入れるしかなく、必然的に食の重要さに気づき、なるべく体に負担のかからない食生活を心がける様になりました。健康である体に感謝しながら自分の体は自分で守るという意識に切り替わり日々暮らしています。
日本と比べると『医者は神様』とか『お客様は神様』というホスピタリティの概念が希薄なメキシコに暮らしていると日本人である私の固定観念は大々的に破壊され、日々メキシコ仕様に刷新されていっています。
それは自己責任で物事を見たり考えて取り入れるということが日常的となり、自分の考えをハッキリと口に出して伝えるということの様に思います。『Sí』なのか『No』なのかの線引きを明確に引ける様になったということでもあります。そして納得出来ない事情に関しては「それについて詳しく説明してください」と食い下がることもあります。
ホスピタリティの面では物足りなさを感じることが多いのですが、メキシコ人特有の大らかさというか寛大さには日々助けられています。外国人だからと言って孤立するのではなく、いかに自立した個でいることが大切なのだと日々感じています。結果メキシコ人的な様々な場面で許容範囲も広がった様な気もします。
アグアスカリエンテスとっておきのスポットご紹介!
ーアグアスカリエンテスをベースに活動されています。舛岡さんのとっておきのアグアスのスポットを教えてください。
舛岡さん:アグアスカリエンテス州生まれの世界で有名な風刺画家ホセ・グアダルーペ・ポサダのMuseo José Guadalupe posada (https://sic.cultura.gob.mx/ficha.php?table=museo&table_id=1046 ) があります。
美術館のあるjardín encinoでは毎週土日に、様々なartesaníaを売る露店が並び賑わいます。その向かいには美味しいメキシコ料理やユカタン料理のレストランやオアハカ産チョコレートを扱うショップ等もあります。
また、アグアスと言えば毎年4月中旬から3週間行われるメキシコ最大の祭りferia de san marcosが有名ですが、数年前からはFestival de las Calaveras というお祭りがポサダに敬意を表し、彼の代表作「骸骨の貴婦人」「カラベラ ガルバンセラ」(後にディエゴ リベラが「ラ カトリーナ」と名付けた)が死者の日の祝祭の伝統の象徴として、会場前で巨大なモニュメントで出迎えてくれます(2022年の開催期間は10/28~11/6でした)
消極的にならずに、どんどん積極的になってください!
ー最後に、メキシコで生活していく方へのアドバイスをお願いします
舛岡さん:「意思表示をハッキリとする」ですね。黙っていても何も伝わらないし、やってみないと何も始まりません。メキシコで暮らしていると、不便な事や理不尽な事が数えあげたらキリが無いほど沢山あるかと思いますし、言葉と価値観の違いに高い壁を感じてしまう事もあるとは思いますが「言ったもん勝ち」みたいなところがあるので、消極的にならずにどんどん積極的に発言していく事をオススメします。怒りを伝えたい時は意外に日本語で怒ると相当怒っているのだな。と察してくれますよ!
ーありがとうございました!
編集後記
アグアスカリエンテス在住の方からのご推薦を頂いた舛岡さん。レオンの革製品の市場ではよく見かける携帯用スリッパですが、日本へのお土産にするにはちょっとシンプルすぎると思っていたところに素敵なスリッパを見つけることが出来ました。
そんな素敵なアイディアを生み出した舛岡さんは国際結婚をされ、メキシコ日系移民の義理のご両親、日系3世の旦那様と生活では相当な苦労があったはずです。それでも自己管理をしっかりしなければいけないことなど、一つ一つ乗り越えてきた姿には芯の強さを感じ取れました。読者の皆様の中でもメキシコで国際結婚をされた方にはとても共感のできるエピソードが多いと思います。
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執筆者紹介:
温 祥子(Shoko Wen)
MEXITOWN編集長兼CEO。メキシコ在住5年半。MEXITOWN立ち上げて今年で3年目に突入。これからも様々なジャンルの方をインタビューしご紹介していきます!趣味は日本食をいかにメキシコで揃えられる食材で作ることができるか考えること。日本人の方が好きそうな場所を探し回ること。
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