【インタビュー】メキシコ住友商事 森藤社長が語る、トレードから事業投資へ――メキシコ事業の現在と未来
- Shoko Wen
- 9月1日
- 読了時間: 6分

メキシコ住友商事(メキシコ住友商事会社、Sumitomo Corporation de México、以下本文中はメキシコ住友商事)の代表を務める森藤社長は、2025年より3度目のメキシコ生活をスタートさせました。約40年にわたりメキシコの内外からメキシコを見つめ続けてきた森藤社長に、メキシコでの事業展開の現在地と未来、そして社長自身の想いについて伺いました。
<目次>
トレードと事業投資、二本柱で支えるメキシコ住友商事のビジネス

―まずは御社のメキシコでの事業内容について教えてください。
森藤:住友商事といえば「商社」、つまり売り買いを中心としたトレードビジネスが原点です。メキシコでも鋼板などの金属部門や、自動車部品・原材料の供給、アグリサイエンス・ライフサイエンス分野では農薬、化粧品原料やペットフードなど、幅広い取引を行っています。
また、資源分野では メキシコの資源メジャーや日系企業と共同で鉱山開発も手がけ、自動車産業向けにはコイル状の鋼板を切断加工して供給するビジネスやブレーキの鋳造部品製造も展開しています。ヒロテック社とも合弁事業を立ち上げ、30年近く自動車産業向けに部品供給も続けています。
さらに、電子基板の実装を手がける事業もあり、トレードと事業会社によるビジネスの「二本柱」がメキシコでの我々の強みです。
トランプ関税の動きに注視しつつ、メキシコでのプレゼンスを維持

―今後のメキシコでの事業戦略はどのようにお考えですか。
森藤:これからは「事業投資」に力を入れていきたいですね。30~40年トレードで培った知見やネットワークを活かし、単なる売買にとどまらず、事業そのものに資本参加し、現地に根付いたビジネスを育てたいと考えています。
たとえば、金属事業ではシェインバウム大統領が発表したPlan Mexicoの中にあるメキシコ国内の鉄道網の整備に向けたレール供給や鉄道網メンテナンス事業に関心があります。
また、トレードの中でも戦略的に選択と集中を進め、特にアメリカでヒットしているペットフード(猫のおやつなど)は今後の重点取引領域と考えています。
―御社にとって、トランプ関税や自動車産業の動きはどう影響していますか。
森藤:自動車産業の減産は我々にも小さくない影響を及ぼしています。直接取引している商品・原材料の取引量が減る中、供給体制の維持が課題です。ただ、我々は「縮小」ではなく、「次の一手」を考えています。顧客やサプライヤーと連携し、事業の持続と新たな打開策を模索しながら、メキシコでのプレゼンスを維持していきたいと思っています。
40年近くメキシコを見続けてきたからこそ感じる「変化」と「不変」

―今回でメキシコ生活は3回目とのことですが、意気込みや変化を感じる点はありますか?
森藤:1988年に学生時代に一人旅で訪れ、1992~93年に語学研修で住み、2014年には自動車メーカーの工場の立ち上げ支援で赴任、そして今回が3回目です。
変わった点は、90年代に比べると車が新しくなったことです。街を走る車が綺麗で新しい車が増えた印象です。もう一つはインターネットの普及でコミュニケーションの形が変わったこと。コロナウイルスのパンデミックの影響でリモートワークの浸透により、直接会う機会が減りつつあるのは少し寂しいですね。リモートによって便利な点もありますが、やはり人と直接会い、コミュニケーションを交わしていく方がメキシコ・中南米らしいのではと思っています。
一方で、変わらないのは街角に漂うタコスの匂いや、メキシコ人の生活のリズム。公害は以前より改善されましたが、道の悪さは相変わらずですね(笑)。公害は私が最初に住んでいた頃が最も酷く、空気がよどんでいました。メキシコ市からグアナファト州サンミゲルデアジェンデに戻った時、澄んだ空気と青い空に感動したことを今でも覚えています。
写真左:グティエレス実さんが手掛けたプロジェクトで実現した、メキシコシティのオリンピック委員会敷地内にある壁画
写真右:広島で活動する日本の伝統音楽とラテン音楽の融合バンドWALATINO
今年で60歳ですが、個人的にはあと5年弱のサラリーマン人生の中で、メキシコ住友商事の基盤を強化し、次世代へ繋ぐことが使命だと考えています。また、広島とグアナファトの友好や日墨交流にも尽力したいと思っています。今年は広島原爆投下から80年を迎えます。その中で、メキシコでご活躍されているグティエレス実さんが手掛ける「核のない世界へ 広島メキシコ友好壁画」プロジェクトがあり、このように両国間をまたいだ取り組みをより多くの方に知っていただきたいと思っています。
「文化・人との交流」でメキシコとの絆を深めたい
―ビジネス以外での活動で意識していることはありますか?
森藤:メキシコでの友人づくり、文化交流をとても大切にしています。例えば、広島で活動する日本の伝統音楽とラテン音楽の融合バンドWALATINOの招聘や、漆塗りの第一人者の紹介などを通じ、日本文化をメキシコに紹介したい。そして逆に、メキシコの文化・芸術を日本に伝えたいですね。
また、グアナファト日本人学校の理事やリセオの理事も引き継いでおり、次世代の子どもたちの交流の機会を広げていきたいと考えています。私の娘もかつてサンパウロ日本人学校に通い、そこでの経験が今の彼女の礎になっています。だからこそ、子どもたちの国際経験の場を広げることは非常に大事だと感じます。
そして音楽、ゴルフ、食事など、、、人との出会いを通じて、人生も豊かになる。メキシコシティでもそうした繋がりを広げていきたいですね。
メキシコでの経験が人生の「宝物」に
最後にメキシコ在住日本人、そしてこれからメキシコを目指す方々へメッセージをお願いします。
森藤:メキシコの治安や住みにくさを感じる方も多いと思いますが、一方で人との素晴らしい出会いがたくさんある国です。違う文化や風習の中で、出会いと経験を楽しんでほしいです。
そして帰国した後もきっと、メキシコでの経験が人生の「宝物」になるはずです。ぜひ前向きに、豊かにメキシコライフを楽しんでください!
経歴
1988年、学生時代に一人旅で初めてメキシコを旅しその魅力に圧倒される。そして中南米で仕事がしたくて商社に入社、以来会社生活36年のうち、32年以上中南米に関わり、メキシコは計6年半以上滞在。中南米の多くの人々との出会いが、人生を豊かにしてくれていることに感謝する日々です。
会社情報
メキシコ住友商事会社 [Sumitomo Corporation de Mexico, S.A. de C.V.]
メキシコシティ本社 [Mexico City Head Office]
Avenida Paseo de la Reforma No. 342, 32nd Floor, Col. Juarez, Del. Cuauhtemoc, C.P. 06600, Ciudad de Mexico, Mexico
Phone: +52-55-2122-3500 / Fax: +52-55-2122-3555
バヒオ事務所 [Bajio Office]
Plaza de la paz 102 Col. Puerto Interior C.P. 36275 Silao, Guanajuato Mexico
Phone: +52-472-500-0807
免責事項
本記事は、ご提供いただいた情報およびご意見に基づいて作成されております。内容については、最終確認を受けておりますが、必ずしも当サイトまたは編集部の見解を反映したものではありません。また、記事内の情報は執筆時点のものであり、その後の状況や条件の変化により異なる場合があります。正確性や完全性について保証するものではありませんので、あらかじめご了承ください。